症例解説
神経外科「 脳腫瘍 」
脳腫瘍とは
頭蓋骨の内部に存在する腫瘍を指し、脳あるいは脳の周辺にできる腫瘍を言います。腫瘍が脳を圧迫することで神経症状を発症します。脳腫瘍には様々な種類がありますが、髄膜腫、神経膠腫(グリオーマ)、リンパ腫、上衣腫、脈絡叢乳頭腫、下垂体腫瘍などが有名です。脳以外の腫瘍が頭蓋内に侵入することもあり、骨の腫瘍、鼻の腫瘍、転移性腫瘍が代表的です。犬猫の脳腫瘍は人間よりも多いと言われており、犬は10万頭に約14.5頭、猫は10万頭に約35頭の発生率です。
症状
種類によって腫瘍細胞の増殖速度は異なり、発生した脳の部位によって神経症状も多様です。けいれん発作、意識レベルの低下、無目的にグルグル回る、頭が傾く、目が見えない、性格が変わる、声変わり、水を飲めないなどの症状が出現することがあります。通常、診断される数週間から数か月前よりなんらかの症状がみられます。
診断
- 神経学的検査:脳のどの場所に障害が出ているかを神経の反応から評価します。
- MRI検査:脳腫瘍の場所や大きさ、周囲の脳への影響、腫瘍の種類を推測するにはとても有効な検査で、ほぼすべての脳腫瘍患者で必要になります。
- CT検査:ときにCTで腫瘍が発見されることもありますが、MRIに比べると脳内の情報は少ない傾向にあります。ただし骨や血管の評価はMRI よりも優れているため、手術計画のために大きな威力を発揮します。
- 生検/ 病理検査:腫瘍の種類を確定診断する唯一の検査です。MRIは高い精度で腫瘍の種類を推測することはできますが、確定診断を下すものではありません。腫瘍組織を採取するには手術や定位固定装置を用いたCTガイド下生検が行われます。
治療
- 支持療法:脳腫瘍によって引き起こされる脳のむくみや発作に対してステロイドや脳圧降下剤、抗てんかん薬などを用いて症状を緩和する治療で、生活の質を保つことが主目的になります。腫瘍自体を縮小させるものではありません。
- 抗がん剤:リンパ腫などの一部の腫瘍には有効な治療です。他の治療法の補助療法として行われることもあります。
- 放射線療法:高放射線量のメガボルテージ放射線装置の出現によって、効果の高い治療法になりました。治療ご希望の場合は、設備を有する動物医療機関へご紹介いたします。
- 手術:目的は、①腫瘍の大幅な縮小と②病理検査による腫瘍の種類の特定です。迅速かつ確実に腫瘍を減量することが可能で、腫瘍の種類や発生部位によっては完全切除を目指せることもまれにあります。腫瘍が完全に取り切れない場合も、病理検査の結果に基づいて適切な追加治療を選択することができます。
症例
髄膜腫
脳や脊髄を覆う髄膜から出現した腫瘍で、犬猫の原発性脳腫瘍の中で最も多い腫瘍です。当院でも手術をする機会が一番多い脳腫瘍になっています。犬では周囲の脳に染み込むように広がり、猫や人よりも悪性の傾向が強いと言われています。対して、猫は周辺の脳に広がらず塊を作っており、切除した場合の経過が良いことが多いです。MRIで髄膜腫を強く疑うことはできますが、ほかの脳腫瘍と同様に確定診断は病理検査でのみ可能です。構成される細胞の種類や悪性度によって分類され(WHO分類、グレードⅠ~Ⅲ)、腫瘍の発生部位と細胞の悪性度が患者の経過や治療に大きく影響します。
症例 ①犬、非定型髄膜腫(グレードⅡ)、後頭蓋窩に発生
① 手術用顕微鏡画像:腫瘍が大きくそのまま引っ張り出すことは難しいので、超音波乳化吸引装置を用いて腫瘍の内部をくり抜いて腫瘍を薄くしました。
② 手術用顕微鏡画像:周囲の小脳や延髄を傷害しないように、薄くなった腫瘍を慎重に引っ張りだしながら摘出しました。
③ 手術前MRI画像:後頭蓋窩に白く造影される大きな腫瘍が確認されました。
④ 手術後MRI画像:腫瘍が消失しました。術後9か月現在、再発はみられていません。
② 手術用顕微鏡画像:周囲の小脳や延髄を傷害しないように、薄くなった腫瘍を慎重に引っ張りだしながら摘出しました。
③ 手術前MRI画像:後頭蓋窩に白く造影される大きな腫瘍が確認されました。
④ 手術後MRI画像:腫瘍が消失しました。術後9か月現在、再発はみられていません。

症例 ②犬、退形成性髄膜腫(グレードⅢ)・嚢胞形成あり、前頭葉から嗅球に発生
① 手術前MRI画像:前頭葉から嗅球に腫瘍が発生し(黄矢印)、後ろに巨大な水の溜まった嚢胞を形成しており(赤矢印)、周辺の脳を圧迫していました。
② 手術後MRI画像:腫瘍と嚢胞は摘出されました。摘出跡に水があるため白く写っていますが、完全な穴になっています。
② 手術後MRI画像:腫瘍と嚢胞は摘出されました。摘出跡に水があるため白く写っていますが、完全な穴になっています。

症例 ③猫、線維型髄膜腫(グレードⅠ)、側頭葉に発生
① 手術前MRI画像:側頭葉に大きな腫瘍が白く写っています。
② 手術後MRI画像:腫瘍は摘出され黒く穴になっています。脳はその後徐々にもとに戻ります。術後10か月現在、腫瘍の再発はみられてません。
③ 手術写真:周囲の脳との癒着もなく、白い腫瘍が一塊として摘出されました。
② 手術後MRI画像:腫瘍は摘出され黒く穴になっています。脳はその後徐々にもとに戻ります。術後10か月現在、腫瘍の再発はみられてません。
③ 手術写真:周囲の脳との癒着もなく、白い腫瘍が一塊として摘出されました。

症例 ④猫、移行型髄膜腫(グレードⅠ)、側頭葉に発生
① 手術前MRI画像:側頭葉に白く造影された腫瘍が写っています。
② 手術後MRI画像:腫瘍は摘出され綺麗になくなりました。術後半年現在、再発はみられておらず、体調は良好です。
③ 手術写真:周囲の脳との癒着もなく、腫瘍が一塊として摘出されました。
② 手術後MRI画像:腫瘍は摘出され綺麗になくなりました。術後半年現在、再発はみられておらず、体調は良好です。
③ 手術写真:周囲の脳との癒着もなく、腫瘍が一塊として摘出されました。

頭蓋内原発組織球性肉腫
10歳のジャックラッセルテリア。発作を起こし意識混濁で来院。MRI検査で脳腫瘍が発見され手術を行いました。肉眼的にすべての腫瘍を取り切りましたが、病理検査で組織球性肉腫と診断され、脳内に腫瘍細胞が残っている可能性が極めて高いことが判明したため、抗がん剤のACNUを3週間ごとに静脈投与しました。長期にわたって腫瘍の再発を抑えることができ、この腫瘍としては異例の490日という長い間頑張ってくれました。

(写真説明)
写真①:手術前のMRI画像。左前頭葉に腫瘍が確認されました。
写真②:手術後のMRI画像。腫瘍は摘出され、画像上消失しました。
写真③:手術中の細胞診。悪性度の高い細胞が多数確認されました。
写真④:手術写真。大きな腫瘍を摘出しました。
写真①:手術前のMRI画像。左前頭葉に腫瘍が確認されました。
写真②:手術後のMRI画像。腫瘍は摘出され、画像上消失しました。
写真③:手術中の細胞診。悪性度の高い細胞が多数確認されました。
写真④:手術写真。大きな腫瘍を摘出しました。
悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNSTs)
6歳のテリア犬が発作を起こし、意識もうろうとしてぐったりした状態で来院しました。MRI検査で右の前頭葉から嗅球にかけて巨大な腫瘍が描出されました。頭蓋内圧は上昇し、腫瘍の周囲は浮腫で腫れあがり、軽度の脳ヘルニアを起こして大変危険な状態でした。同時に、右の三叉神経が造影剤で染まっている所見が得られています。腫瘍は出血が多く巨大で手術は困難を極めましたが、輸血等を行いながらそのほとんどを摘出でき、その後は元気に走り回れるまで回復してくれました。病理検査で悪性末梢神経鞘腫瘍が頭蓋内で成長していることが判明し、おそらく右の三叉神経が起源であると考えれました。その後の経過も順調でしたが、術後6か月MRIで右の眼窩に腫瘍の再発所見がみられました。

(写真説明)
写真① :MRI画像。巨大な脳腫瘍が前頭葉に存在し(黄矢印)、周囲には脳浮腫がみられ(オレンジ矢印)、大脳と小脳尾がヘルニアを起こしてきていました(赤矢印)。
写真②: 手術前MRI画像。巨大な腫瘍が白く描出されています。
写真③ :手術後MRI画像。腫瘍は肉眼的にほぼすべて摘出されました。
写真① :MRI画像。巨大な脳腫瘍が前頭葉に存在し(黄矢印)、周囲には脳浮腫がみられ(オレンジ矢印)、大脳と小脳尾がヘルニアを起こしてきていました(赤矢印)。
写真②: 手術前MRI画像。巨大な腫瘍が白く描出されています。
写真③ :手術後MRI画像。腫瘍は肉眼的にほぼすべて摘出されました。
退形成性希突起膠細胞腫(悪性グリオーマ)
12歳のフレンチブルドックが発作で来院し、MRI検査で左の側頭葉内にリング状に造影される腫瘍が発見されました。脳の深い場所に腫瘍があり、正常な脳との区別が困難なことがあるため事前に染色液で腫瘍を黄色に染めておき、脳を切開して腫瘍に到達し可能な限り除去しました。病理検査では、退形成性希突起膠細胞腫と診断され、極めて悪性の脳腫瘍であることが判明したため、抗がん剤療法を行いました。その後しばらくして再発はみられましたが、ご家族との幸せな時間を過ごすことができました。

(写真説明)
写真① :手術前MRI画像(横断像)。脳内に白くリング状に造影された腫瘍が確認されました。
写真②: 手術前MRI画像(冠状断像)。脳内に白くリング状に造影された腫瘍が確認されました。
写真③: 手術後MRI画像(横断像)。腫瘍はほぼ消失しています。
写真④ :手術後MRI画像(冠状断像)。腫瘍はほぼ消失しています。
写真⑤ :手術用顕微鏡写真。脳を分け入っていくと淡く黄色に染まった腫瘍が確認されました。
写真① :手術前MRI画像(横断像)。脳内に白くリング状に造影された腫瘍が確認されました。
写真②: 手術前MRI画像(冠状断像)。脳内に白くリング状に造影された腫瘍が確認されました。
写真③: 手術後MRI画像(横断像)。腫瘍はほぼ消失しています。
写真④ :手術後MRI画像(冠状断像)。腫瘍はほぼ消失しています。
写真⑤ :手術用顕微鏡写真。脳を分け入っていくと淡く黄色に染まった腫瘍が確認されました。
〒861-4115 熊本県熊本市南区川尻6丁目8-7
診療時間
AM / 09:00~12:00 PM /16:00~19:00【休診】木曜午後、日曜、祝日
(手術日のため休診)毎月第2・第4 火曜午後
※受付はAM・PMとも診療終了10分前までとさせていただきます
※12:00~16:00は手術時間帯となっています
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