症例解説
軟部外科「 胸腔内腫瘍 」
開胸術とは
心臓や肺などを収めているスペースを「胸腔(きょうくう)」と言います。胸腔は肋骨や何層にもわたる筋肉で囲まれており、生命に直接かかわる臓器を守っています。開胸術は胸腔の中にある臓器や病変にアクセスし、治療するための手術方法です。例えば、心臓外科、肺の切除、胸腔に存在する肺以外の腫瘍の切除、乳び胸や異物など多くの病気の治療として行われます。胸腔のどの部分をどれだけ開放するかは病変の位置や大きさで決定しますが、①胸骨縦切開術と②肋間開胸術を基本にしています。それでも対応が困難な場合は患者によって手術方法をアレンジします〔症例2を参照〕。
(切開の位置:胸の下側中央を開く胸骨縦切開〔赤点線〕と肋骨の間を開く肋間開胸術〔黄点線〕。 肋間開胸術は病変の位置によって切開の場所を変えます。)
肺葉切除術とは
肺はいくつかの区画に分かれており、右肺は前葉・中葉・後葉・副葉、左肺は前葉(前部と後部)・後葉から構成されています。それぞれの葉には気管支、肺動脈、肺静脈が流入しています。腫瘍、膿瘍、肺挫傷、肺嚢胞、肺葉捻転などの病気で実施される手術です。肺葉切除術は病変のある肺の区画ごと一塊で摘出する方法で、様々な肺の手術でもっとも選択されることが多い方法です。
- 【症例1 :肺腺癌】
11歳のトイプードルで、去勢手術の事前のレントゲン検査で偶然にも肺にしこりが見つかりました。エコー検査で 細い針を刺して細胞を採取したところ腫瘍細胞を疑う所見があったため、 CT検査を行いました。CT検査では肺の左前葉前部という場所に直径2~3cmの腫瘍ができていることが判明し、他の肺や全身への転移所見がないことから、手術による摘出をすることとしました。 CTのデータから手術計画を練り、肋間開胸術で胸腔を開け、肺の左前葉を腫瘍ごと完全に切除しました。病理検査は肺腺癌でした。術後合併症もなく元気に退院してくれました。① CT画像:心臓より前側に円形の腫瘍が確認できます。
② 手術写真:肋間開胸術で腫瘍の存在する肺を引きずり出しています。
③ 摘出した腫瘍:左前葉の肺とともに腫瘍を完全に摘出することができました。 - 【症例2 :胸腔内巨大腫瘍】
13歳の雑種犬で、頻繁に失神して倒れるとのことで来院されました。X線検査や超音波検査で胸腔内に巨大な腫瘍があり、心臓を圧迫して失神を起こしていることが判明しました。CT検査で直径10cmを超える巨大な腫瘍が右胸腔内に存在し、心臓が反対側に押されて押しつぶされていました。通常の開胸術では腫瘍の摘出ができないため、3肋骨にわたって大きく胸を開ける特殊な方法で行いました。腫瘍は胸壁(胸腔を囲む筋肉などの壁)の内側から出てきたものであったため、周囲の肺などから慎重に癒着を剥がして摘出しました。病理検査では起源不明肉腫(悪性)でした。術後の合併症もなく、失神などの症状も全くみられなくなり元気に退院しました。① CT画像:巨大な腫瘍が心臓を反対側に圧迫しており、心臓が胸壁に押し付けられています。
② CT画像(手術計画):腫瘍の位置と大きさから3肋骨を横断するように切断し、ドアを上にあけるように開胸することとしました。
③ 手術写真:肋骨をドアのように開け、巨大な腫瘍を体外に摘出しました。胸壁から出現した腫瘍でした。
④ 摘出した腫瘍:直径12㎝にもなる巨大な腫瘍でした。
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